きゃりーぱみゅぱみゅは言えるのに。
きゃりーぱみゅぱみゅは言えるのに。
私はシャーマンだ。
シャーマンというとなんだかかっこいいが、台湾の血を引く、現地語ではタンキーという。乩童。ジェンポ。道教式の霊媒だ。母方の家系で代々受け継がれてきた。家の神棚には西王母様がいて、小学校に上がる前に神棚の絵に問いかけたら、綺麗な声が返ってきた。それが始まりだった。
パートナーがいつまで経ってもタンキーという単語を覚えてくれず、ターキーと呼んでくる。ーとンの違いなのだが、区別がつけられないのか、わざとなのか。もう何十回も訂正した。直らない。
きゃりーぱみゅぱみゅは言えるのに、タンキーは言えない。
日本語の発音の問題ではないと思う。
パートナーは詳細は伏せるが医療職をしている。身体の弱い私のためにいつも力を尽くしてくれるのだが、医療職だからなのか、勉強のスピードがものすごく早い。あらゆる占い、スピリチュアルジャンルの中でも風水に興味を持ったらしく、私は嬉しくなってたくさんの風水資料を差し出した。絶版になったものもたくさんある。中国語の原典も混ざっている。普通は読めない。
ものすごいスピードで吸収している。
私が1年かけて習得したものを3日で習得する。0から袼書魔法陣まで書けるようになった。
これはまずい。
本来ならパートナーの成長は喜ばしいのだが、風水となると話は別だ。風水は本来、風水師と霊媒——いわゆる私のような能力を持った人間が2人で監修を行うものだからだ。風水師が図面を読み、現地を見て、方位を取る。しかし風水には矛盾がある。流派によって吉凶が真逆になることがある。その矛盾を埋めるのが霊媒の仕事だ。神託を降ろして、どちらが正しいかを確認する。つまり、風水師が進めば進むほど、霊媒が必要になる。
パートナーが風水師になるということは、私が霊媒として再稼働するということだ。
ターキー、いやタンキーの修行をしていた頃は、廟——つまり道教式のお寺に住み込みで、各々が課題を見つけて取り組むスタイルだった。あまり知られていないが、道教の修行は自由だ。特に嫌なことも辛いこともない。ぶっちゃけヒマすぎてやることがないくらいだ。瞑想もイスが用意されている。突然神がかりになって立てなくなったら大変だからだ。座ったまま意識を飛ばせるのは、ありがたい設計だと思う。
このままパートナーが風水師になるとなると、私は再びターキーとして稼働することになる。せっかく与えられたまな板さんでぽやぽや過ごす休日も、スマホでくだらないSNSを見る時間も無くなってしまう。下手するとパートナーも一緒に廟に入ることになる。
これはまずい。
私はかつてタンキーの正社員だった。廟に住み込みで、フルタイムで神事を行っていた。さまざまな問題ごとをお筆先——いわゆる自動書記で解決してきた。神降ろしの状態で手が勝手に動いて、紙の上に神様のメッセージが降りる。記憶はあまりない。終わった後に「何を書いたの?」と聞かれても、自分でもわからない。抗うと後遺症が出る。素直に身を任せるのがコツだ。
その後、フリーランスのアルバイトにシフトダウンした。ここ最近やっと暇になったところだ。まな板さんで塗り絵をしたり、お絵描きをしたり、ブログを書いたり。こういう「何もしない贅沢」を楽しめるようになったのは、正社員を辞めたからだ。
しかし、パートナーがこのまま風水師になってしまったら、私は再びターキーに出戻りだ。今はアルバイトでのんびりさせてもらっているが、正社員になったらフルタイムだ。図面監修も現地監修もターキーが必要になる。
ちなみに、パートナーは私がシャーマンであることは認識している。実際に目の前でショートコント——いや、神降ろしが発動したこともある。泣いて成仏していった霊がいて、パートナーがずっと背中をさすっていてくれた。それは感謝している。
しかし、タンキーという言葉は覚えてくれない。
なぜだ。
そこでひとつアイデアがある。
うちのプリンターの複合機だ。
このプリンター、4万円もしたのに、私のコラージュだけは頑なに印刷してくれない。テストページは刷る。仕事の資料は刷る。シール紙は刷る。しかし私が本当に刷りたいもの——iPadで作ったコラージュを上質紙に印刷しようとすると、無音で停止する。理由はわからない。メーカーに聞いてもわからない。3ヶ月、戦績2勝15敗。枕元に置いているので毎晩私の寝息を聞いているくせに、刷らない。
そこに私が手を挟めば、プリンターがお筆先をプリントしてくれるんじゃないか。
いやきっと、手のひらがそのままカラーで印刷されてくるだけなんだけど、試してみたい。
ここ最近不機嫌なプリンターは、私の手のぬくもりで機嫌を取り戻してくれるのかもしれない。タンキーの手が複合機のフタに挟まれて、神託ではなく手のひらのシワが上質紙に印刷される。それはそれで、手相の自動鑑定と言えなくもない。
プリンターを正社員にして、私はアルバイトをするのはどうだろう。
どのみち、パートナーが風水師になったら、私はパートナーの専属タンキーとして業務を行うのだろう。パートナーは勉強熱心だ。そのうち、降ろされた神託を解読する審神者になろうとするかもしれない。それもまた悪くない。
しかし。
書き下ろしたお筆先を複合機に挟んで、解読したものをプリントしてくれないだろうか。
プリンターさんさあ、あんた、高かったんだよ。
たまにはさあ、こんな仕事もどうだい?




